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出版社:岩崎学術出版社
出版日:1998年04月
ISBN10:4753398048
ISBN13:9784753398041
販売価格:3,740円
●本書には,ウィニコットの人生やさまざまな論文にちりばめられた真実が,テーマごとに整理されている。なかでも本書の特徴は自我心理学学派の概念である「発達理論」に沿ってウィニコットの成果を整理しなおした点にある。本書を読むことで,ウィニコットの存在も彼の理論も身近なものになるだろう。
●目次
「ウィニコット著作集」日本語版にあたって/序文
第1章 なぜ今ウィニコットなのか 第2章 人となりと分析家の仕事 第3章 ウィニコット学派の原則 第4章 ウィニコット学派の母親と赤ん坊 第5章 自己とその機能の発達ライン 第6章 対象の感覚と対象関係の発達 第7章 中間世界の発達と創造性との関係 第8章 ウィニコットを読むこと 第9章 ウィニコット学派の治療の進め方 第10章 治療者に対する警告 第11章 ウィニコット学派の治療の未来 付録:ウィニコットに関する注釈つきの参考文献
参考文献/訳者あとがき/索引
◇ ◇ ◇ 本 書 の 解 説 ◇ ◇ ◇
本書は,Dr.Simon A.Grolnick著の“The Work & Play of Winnicott”(Jason Aronson Inc.,1990)の全訳である。
Dr.Donald.W.Winnicott自身については,本書であますところなく述べられているので追加するまでもない。わが国においても,純粋に構造化された正当な精神分析療法があらためて追究されている一方,本来の精神分析の対象ではない,しかし強く支援を求めている人々に対して,そのニーズにあわせた精神分析的精神療法の実践と研究が進んでいる。その領域のなかで,ウィニコットの方法と理論を信奉する人々はますます増えているように思われる。しかし,ウィニコット自身の臨床実践がそうであったように,変化しようとしている人にあわせて常に理論も変化し,しかも変化を保証する中間領域というものにその焦点をあわせていたために,あいまいさや詩的感覚が存在していて,全貌を明確につかみにくい世界であった。理論や技術を固定化し,派閥を作って,それを押しつけることを嫌ったウィニコットは,一人ひとりの患者自身にはおそらく見事に分かったのであろうが,理論としては理解しにくいものであった。しかし,本書を読むことで,ウィニコットの存在も,彼の理論も,相当に身近になるのではなかろうか。ウィニコットの人生や,さまざまな論文に散りばめられた真実が,テーマごとに整理されている。なかでも本書の特徴は,自我心理学学派の概念である「発達ライン」にそってウィニコットの成果を整理し直した点にあろう。これは,人格を構成する一定の行動群ごとに発達の図式を整理したもので,ウィニコッ ト自身は明らかに発達論者であっても,この発達ライ ンを用いて整理したわけではない。自我心理学でなければ精神分析でないと信 じられた一昔前のアメリカで,患者と自分に正直になってたどり着いたウィニコットについて,グロールニックが他の精神分析家との対話のために工夫した方法論が発達ライ ンという枠組みなのであろう。
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本書の題名についてふれる。本書は,ウィニコットを初めて学ぶ者にとって便利な構成と比較的分かりやすい記述となっている。その意味で「入門」と題するのに適 しているが,何度読み返しても新しい発見のある奥深い一冊でもある。しかし,出版社に勧められたこの題名に,実はほっとしていることを告白しておきたい。つまり,“The Work & Play”の正確な翻訳が不可能なのである。もちろん,単に「仕事と遊び」ではないし,「作品と営み」でもない。強いて表現すれば,「形になったものと形にならなかったもの」や「意識と無意識」が近いだろうか?本書の中では,「この仕事をあなたは楽しまなければなりません。と言うのも,その大半が遊びであるからです」(P.119)の部分と関連しているのであろう。究極的にはWorkとPlayの区別はつきがたく,真実はこの中間にあるとも思える。(「訳者あとがき」より)
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