家のイングランド

建築物に積み重なる経験と記憶に寄り添うとき、そこには何が見えてくるのか。カントリー・ハウスや田舎家（コテッジ）、郊外住宅から、都市の闇としてのスラムまで、テクストが描きだす多様な建築表象を歴史的・社会的文脈の中で読み解き、「イングリッシュな家」の神話を問い直す画期的な建築文学論。 序　章　イングリッシュな家のハビトゥス 1　イングリッシュな家と文学 2　歴史と建築と文学 3　本書の骨組 第1章　闇の奥の家 　--スラムをめぐるまなざしと表象ーー 1　ディストピアの言説 2　スラムと中流階級の家の対比 3　チャリティを通して見つめた都市の最暗部 4　「退化」と「恐怖」でつながるスラムと上品な邸宅 5　覗き見趣味の巡礼 第2章　スラムに聳えるネオ・ゴシック建築 　--夢に終わった中世の理想ーー 1　封建主義の復権 2　田園主義の具現 3　ピクチャレスクな過去と現在 4　「自由」と「秩序」と「雅量」と 　--ラスキンがゴシック建築に見出したもの 5　モダンな中世主義ーーウィリアム・モリスの『ユートピアだより』 6　スラムの跡地のネオ・ゴシック住宅 第3章 「混濁」した郊外と家 　--不可解な空間ーー 1　ユートピアの幻影ーー解釈できない空間 2　「ピクチャレスク」の変質 3　「没場所」としての郊外を読み直す 4　郊外を流離う夏目金之助 5　帝国内の異空間とマイホーム主義 第4章　イングリッシュな農家屋 　--遺産の継承と社会ーー 1　「イングリッシュな農家屋」というハビトゥス 2　流転する都市の景観 3　田園への回帰 4　田園都市の誕生 5　「イングリッシュな家」の創造 6　「つなぎとめる」建築物 7　帝国の陰影 第5章　「空っぽの貝殻」 　--消えゆくカントリー・ハウスの幻影ーー 1　消えたカントリー・ハウス 2　戦間期の不安ーーダロウェイ夫人が感じる闇 3　空虚な屋敷の原型 4　回想のなかのカントリー・ハウスーーデュ・モーリアの『レベッカ』 5　かつて僕はそこにいたーー記憶のなかのブライズヘッド 6　空洞化する「威厳」--カズオ・イシグロの『日の名残り』 7　カントリー・ハウスの現在と未来 第6章　建築物の詩学 　--ジョン・ベッチャマンと歴史的建築物ーー 1　奇矯なる国民詩人 2　裏街道を迷走する 3　建築物の詩学 4　新生ゴシック建築 5　盟友ジョン・パイパー 6　ベッチャマンの教会賛美 7　鉄道マニアとしてのベッチャマン 8　ベッドフォード・パークの戦い 9　伝統の再編成 想い出の家ーーあとがきにかえて 注 引用文献 図版一覧 索　引