中世エジプトの土地制度とナイル灌漑

エジプトの支配がチェルケス・マムルーク朝からオスマン朝へと引き継がれる16世紀にかけて，土地制度やナイル川の灌漑の維持管理にはどのような変化と連続性があったのか．詳細な史料分析に基づき，イクター制を正面から捉えることによって，エジプトにおける支配・被支配をめぐる統治体制の展開を明らかにする． 序　章　支配の移行期の連続的な理解に向けて 　第一節　本書の対象とする時代 　第ニ節　中世エジプトにおける土地制度の展開 　第三節　本書の着目する三つの要素 　第四節　本書の史料 　第五節　本書の構成 第一部　記録管理の連続と非連続 第一章　『軍務台帳』の成立 　第一節　オスマン朝の土地政策と『軍務台帳』 　第ニ節　史料としての『軍務台帳』 　第三節　小結 第二章　王朝から王朝へーー土地記録の移管とその管理者 　第一節　『チュルケス台帳』の移管 　第ニ節　ジーアーン家 　第三節　マラキー家 　第四節　小結 第三章　移管された土地台帳 　第一節　「要約台帳」という名の台帳群 　第ニ節　詳細な記録を持つ台帳群 　第三節　小結 第四章　書き換えられる土地記録 　第一節　『至宝の書』の研究史と問題点 　第ニ節　ボドリアン図書館手稿本の成立過程 　第三節　『至宝の書』の記録年代 　第四節　小結 第二部　土地制度と灌漑における連続と非連続 第五章　イクター保有の実態 　第一節　『軍務台帳』に記載された記録の解題と利用　 　第ニ節　土地権利分布の俯瞰的把握　 　第三節　概要記録に見るイクター保有 　第四節　詳細記録に見るイクター保有 　第五節　恩給のイクター 　第六節　小結 第六章　灌漑とその維持管理 　第一節　ペイスン灌漑とジスル　 　第ニ節　スルターニー・ジスルと水利圏　 　第三節　ジスルの管理 　第四節　小結 第七章　オスマン朝統治初年のファイユームの村々 　第一節　アヤソフィア手稿本の編纂年代と目的　　 　第ニ節　記録の背景　　 　第三節　各村の記録内容 　第四節　小結 第八章　オスマン朝統治体制の確立と水利行政の変化 　第一節　マムルーク朝の延長か，変化か　　 　第ニ節　ファイユーム県の地理的特色と位置づけ　　 　第三節　灌漑の維持管理の税とアクター 　第四節　小結 終　章　支配の移行期における統治体制の変換 Nile Irrigation and the Land System in Medieval Egypt Wakako KUMAKURA