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出版社:岩崎学術出版社
出版日:2012年11月
ISBN10:4753310523
ISBN13:9784753310524
販売価格:3,740円
●解離の患者の多くは自らの断片化した体験に困惑し、納得できる説明を求めている。そのため治療者が病像を適切に把握し患者に説明することはきわめて重要であり、それ自体が治療的といえる。本書では、精神病理学の第一線で活躍する著者たちが、症候から自己の構造論、時代背景など、解離の全体像を描き出す。
●目次
まえがき
第 I 部 解離とは何か……松本雅彦
解離のルーツを訊ねて
1 はじめに 2 ヒステリーの登場 3 その前史ーーメスメルの磁気治療 4 ピエール・ジャネの実験治療 5 精神機能の階層構造 6 今日の臨床から 7 おわりにーー解離性障害と統合失調症との異同
解離論の新構築……森山公夫
1 はじめにーー解離=還ってきたヒステリー 2 乳幼児期と解離 3 解離とシャーマニズム 4 解離とはなにか? 5 おわりに
第 II 部 解離と周辺病態
高機能広汎性発達障害(アスペルガー症候群)……広沢正孝
1 はじめに 2 高機能PDDと解離との問題 3 高機能PDD者の自己ー世界感をめぐって 4 高機能PDDと解離症状との関連 5 おわりに
BPDと解離性障害……岡野憲一郎
1 これまでの考察のまとめ 2 DIDとBPDとの関連性に関する疫学的研究 3 自験例を振り返って 4 症例の提示 5 最後に
解離性障害の背景……内海健
1 はじめに 2 疾病分類学的位置づけ 3 歴史的考察 4 性差をめぐって 5 おわりに
第 III 部 現代社会と解離
抵抗する解離ーーコントラ・フェストゥムと現代……野間俊一
1 解離研究の挫折 2 生命性をめぐる病理 3 夢見る記憶 4 解離ポジションという生き方 5 共存感覚と身体 6 生からの抵抗としての解離
〈中心〉のない多元化ーーアイデンティティー失効からアスペルガー症候群まで……大饗広之
1 ポストモダンと物語の変容ーー序にかえて 2 〈アイデンティティー型〉からく多元型〉へ 3 「人格の多元化」の中核群 4 アスペルガー症候群における人格の多元化 5 さまよえる診断概念 6 もう一つの系列ーー結語にかえて
現代社会と解離の病態……柴山雅俊
1 はじめに 2 現代社会のゆくえ 3 現代社会と解離 4 現代社会と解離周辺の病態ーー自閉症スペクトラムと統合失調症 5 おわりに
■解説
解離の患者は治療者をよく見ている。彼女ら/彼らは自分に対する治療者の認識や感情に大きく影響を受ける。治療者にひどく傷つけられたと一方的に感じたり、治療者の欲望に合わせてしまったりする傾向がある。こういったことは彼女ら/彼らの被暗示性が高いことを示している。であるならば、治療者が適切に接すれば患者はより安定化する可能性も高いということになる。実際、病気についての説明をするだけで症状が軽快する患者も多い。また逆に治療者が拒否的あるいは不安な態度をとれば、それに応じた病像を呈することになり、事態はよりいっそう混乱を招くこともあるかもしれない。
このように患者は治療者の作り出す自分に対するイメージに大きく左右される。解離の病態は治療者と患者の抱く幻想の相互作用によって作りだされるといってもよいだろう。ヒステリーが時代と地域によってその病像を変化させてきた一因はここにある。こういった意味でも解離の全体像を適切に把握し、無理のない了解図式を獲得しておくことは解離の臨床では欠かせないものになっている。本書の企画の意図はここにある。(「まえがき」より)
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