青雲を指す剣新装

天成の美貌と単越した剣技の持ち主、白河藩七十万石取りの小身仏光寺千代丸が、藩主の庶子幸丸のお相手として小姓組に召し出されたのは、父病没の文化六年十四歳のときだった。芝山道場の信頼できる先輩竹内弘太は言った。「千代丸はねらわれる、あまりに美しすぎるからだ」と。果たして、初出仕の日から弘太の言葉は現実となって千代丸に降りかかり、旬日を経ずして命を賭して生国を脱藩しなければならない無念が待ち受けていた。お家騒動に巻き込まれた弘太を助け、束の間の契りを結んで無残に引き裂かれた幼馴染みの美鈴への恋情を胸に、数多の女難・剣難を乗り越えて十年、その千代丸が一万石大目付備前守吉成として将軍家斉の姫君を奥方に迎える身になろうとは何人が予測できただろう。