目次
【第一章】津軽海峡越境
I.連絡線誕生から終戦まで……◆国境の長いトンネルを抜けると◆黎明期の青函連絡船◆「消えた」連絡船◆無味乾燥な戦中の時刻表◆消えた時刻表を推理する
II.戦後の復興と1系統……◆戦後の連絡船復興◆連絡船と「1」系統◆航空機の台頭◆「レールが結ぶ一本列島。」◆青函トンネル百行
【第二章】北海道最長鈍行阿房列車……◆素晴らしき哉、鈍行!◆鈍行列車に揺られてみれば、道内開化の音がする◆裏切り列車は北を目指す◆廃墟の街も脈々と、進め鈍行新時代◆華麗なる邂逅、絶妙なる離別◆そして、2429Dへ
【第三章】峠三景
I.北見峠……◆鈍行で行く石北本線◆開業までの紆余曲折◆過疎化する路線◆峠を貫く石北トンネル◆難所・北見峠◆廃止された駅たち
II.狩勝峠……◆壮大な峠越え◆往時の狩勝峠◆過酷だった蒸気機関車での登攀◆トンネル工事の悲劇
III.塩狩峠……◆天塩国と石狩国の国境◆2月28日の邂逅
【第四章】広告の愉しみ……◆時刻表は数字のみにあらず◆旅行書としての時刻表◆商品広告たたき売り◆戦争の影で変わる広告
【第五章】北の酒場にて……大みそ日の夜、道内の各駅が出席しての酒宴を著者が開催。各駅を擬人化し、さまざまな年齢や性別、キャラクターの駅たちが、喧々号号、侃侃諤諤の会話を繰り広げていく。酒宴には作者自身も登場するなど、メタフィクションの様相を呈しながら、大みそ日の夜は更けていくのだった…。
前書きなど
本書において、筆者は時刻表を「化石」として捉え、新たな角度から光をあててみた。どのような意味において「化石」と捉えるかは後述するが、重要な要素は、時刻表の「情報の多様性」と「物質性」であると考える。
「情報の多様性」とは、数字やその他の印刷記載された情報が膨大であることを意味する。数字の羅列も、体系立ててその変化を追っていくと、そこから様々なことが浮かび上がってくるのだ。走る列車は、個人の思い出だけでなく社会の動静、世相までを反映する。例を挙げれば、大戦中は政治的意図が色濃く反映され、軍需輸送のために削減された花形列車、敵国の攻撃を防ぐべく省略された航路便の時刻が、奇妙な言い方だが〝見えてくる〟のである。
(中略)
時刻表は、もとより数字だけで構成されているのではなく、商品やサービスの宣伝広告、景勝名勝地の案内、鉄道の利用案内といった、列車時刻とは異種の情報も数多く含まれている。宿の宿泊料金や時刻表自体の値段の推移、写真や絵のなかのモデル、その人物の服装、髪型、宣伝文句の書体、印刷製本の方法、紙質……些細ではあるが、時代の証言者として充分かつ貴重な資料が豊富に詰まっている。これらの情報を重ね合わせることで、ぼんやりとだが次第にその時刻表を生み出した時代が浮かび上がってくるのだ。
もちろん、時刻表はすべての情報を記載しているわけではないし、読み取れることも断片的な事柄に過ぎない。しかし、こうしたカケラを集めて時代を推測する作業は、根気が必要であるものの、実に面白い。純粋に考古学的、生物学的な意味での化石の読み取り作業と、極めて類似しているようにさえ思える。さらに、時刻表を「人間社会の変遷を刻み、情報を後代まで伝えるもの」と見ることにより、比喩的な意味において「化石」と言い得るのではないだろうか。「化石」としての時刻表が秘める「情報の多様性」は、学術的な意味における〝化石〟と比較しても、決してひけを取らないものであると筆者は確信する。
(序章より)